戻り鈍いベトナムドン【フィスコ・コラム】
*09:00JST 戻り鈍いベトナムドン【フィスコ・コラム】
ベトナム金融市場は歴史的な節目を迎えているものの、通貨ドンの過去最安値からの戻りは鈍い状況です。株式市場は「新興市場」に格上げされ、株価は過去最高値圏に浮上。その後は激しい調整に見舞われており、マネーの流入は抑制気味のようです。
今年4月に米トランプ政権が高関税政策を発表すると、米国経済の不透明感からドルは対主要通貨で大きく下落しました。しかし、ドンは新興国の貿易への影響に懸念が強まり、ドル売り地合いにもかかわらず軟調に推移。1ドル=2万6400ドン台で下げ止まった後は過去最安値付近でもみ合い、秋口からやや持ち直す展開に。とはいえ、回復ペースは緩慢で、高成長国の通貨の値動きには見えません。
対照的に株価は大相場が続いています。VN指数は心理的節目の1500ポイント付近を7月に突破すると弾みが付き、上昇基調を強めました。8月の1か月間だけで10%超も値上がりし、9月の調整を経て10月には取引中に1700ポイントを上抜ける場面も。終値ベースで過去最高値を更新し続け、1800ポイントが視野に入り、市場関係者は夢の2000ポイントに期待を膨らませました。
その背景にあるのが、株式市場の格上げです。ベトナム政府と証券当局は、外国人投資家の参入を容易にする制度整備や、取引・決済システムの近代化に注力してきました。さらに、情報開示の透明性向上や英語での開示拡充なども進み、国際的な評価機関が求める基準を満たしたことが格上げの決め手となりました。こうした改革が国内外の投資マネーを呼び込み、市場の信頼感を高めたのです。
ところが、その後は急激な利益確定や持ち高調整の売りが活発になり、VN指数は大きく押し下げられる場面が目立ちます。10月17日の取引では36ポイント、週明け20日は実に94ポイントも下落し、2営業日だけで実に140ポイントと、記録的な下げとなりました。9月には急落後に自律反発の持ち直しが見られたものの、格上げ以降の取引では戻りの勢いが弱まっています。
足元では、通貨と株価の動きにずれが生じています。株式市場は格上げ効果で上昇を先取りしましたが、ドンは貿易赤字やドル高基調を背景に上値が重いまま。株価がこうも不安定だと、やはりマネーの流入も限定的です。ベトナム中銀は為替の安定を優先しつつも大胆な介入を避けており、金利引き上げにも消極的。外貨建て投資で為替リスクを慎重に見極める局面が続けば、ドンの上値は引き続き抑えられるかもしれません。
(吉池 威)
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