富士紡HD Research Memo(6):EV・スマートフォン向け半導体需要の低調は続くが、引き続き増収増益を見込む
*12:06JST 富士紡HD Research Memo(6):EV・スマートフォン向け半導体需要の低調は続くが、引き続き増収増益を見込む
■今後の見通し
1. 2026年3月期の業績見通し
富士紡ホールディングス<3104>は中期経営計画「増強21-25」において、中期経営計画1年目は順調なスタートを切ったが、2年目の2023年3月期下期から2024年3月期上期にかけて、“史上最悪級”の半導体不況が直撃し、半導体関連材料の研磨材を扱う事業をコア事業とする同社も深刻な受注減に陥った。しかし、4年目の2025年3月期は、生成AIなどの先端半導体がけん引役となり半導体需要は回復局面に転じ、研磨材事業も急速に回復・拡大し、同時に化学工業品事業も市況悪化が底を打ち回復傾向となり、2026年3月期は中期経営計画「変身06-10」以降、営業利益、当期純利益で過去最高となる見込みである。
2026年3月期の連結業績は、売上高が45,400百万円(前期比5.8%増)、営業利益が7,500百万円(同15.8%増)、経常利益が7,700百万円(同15.4%増)、親会社株主に帰属する当期純利益が5,000百万円(同11.7%増)と、引き続き増収増益を見込んでいる。
世界の半導体市場は2025年には過去最高の7,553億米ドルとなり2ケタ成長が見込まれている。なかでも、生成AIにけん引された最先端ロジックやメモリー半導体の需要拡大とさらなる成長が続くものと期待されている。一方、EVやスマートフォン向け半導体需要の低調が続くが、データセンター向けの持続的な投資が半導体需要の全体を押し上げる要因となっている。こうした状況を踏まえ、同社では、最先端半導体関連企業が集積する台湾に研究開発センター(2027年春以降稼働予定)を設立し、ハードパッド参入のための開発や顧客とのすり合わせに加え、顧客ニーズにきめ細かく対応するため、既存のソフトパッドの改善を図る。
2. セグメント別業績見通し
(1) 研磨材事業
売上高21,400百万円(前期比10.8%増)、営業利益5,750百万円(同21.6%増、営業利益率26.9%)を予想している。主力である研磨材事業では、半導体市場における生成AI関連投資の拡大を背景に、堅調な業績推移が見込まれるため、部門間の連携を強化して顧客対応力の向上を図る。さらに、半導体の微細化・積層化に対応してCMP用途の需要を取り込み、ソフトパッドのシェア拡大とハードパッドの拡販に取り組む方針である。
研磨材事業の主軸となるCMP用途やシリコンウエハー用途では先端半導体向けを中心に2026年3月期も好調に推移するものと予想している。特に、同社の研磨材(ソフトパッド)は、ロジック半導体製造プロセスにおいて高いシェアを占めており、生成AIやIoT分野で使用されるロジック半導体の高成長が受注拡大をけん引している。シリコンウエハー用途では、先端品(特に生成AI搭載)用途の需要は好調で今後も受注拡大が期待できる。一方、スマートフォンやPC関連の汎用品用途のウエハーはまだ需要回復していないが、同社ではこれから回復していく中での“伸びしろ”があるとみている。液晶ガラス用途では、これまでに「中国の補助金政策」という特殊要因で需要増大となっていたが、今後はその反動リスクを想定する必要がある。一方、ハードディスク用途ではデータセンター向けの需要が非常に強く、“供給が追いついていない状況”であるため、下期も売上高拡大が予想されている。
次世代パワー半導体(SiCウエハー)分野は、EVの需要鈍化やFA向けの投資減退、中国の景気悪化などの要因によりSiCウエハー用途は在庫調整段階にあるが、中長期的には成長が期待される分野であり、いずれ回復が見込まれるものの、もうしばらく時間がかかりそうな状況である。
(2) 化学工業品事業
売上高14,400百万円(前期比6.9%増)、営業利益1,400百万円(同15.0%増、営業利益率9.7%)を予想している。化学業界全体の需要回復や半導体関連を中心とした電子材料は引き続き堅調に推移すると見込んでいる。また、下期の生産もほぼフルに近い稼働状態で推移する見通しである。
機能性材料は中長期的に受注拡大が見込まれることから、国内2工場(柳井工場、武生工場)の連携強化を一層進めている。併せて、2026年4月の稼働開始を目標に、強い需要が見込まれる製品に関わる新プラントの建設も進行中である。新プラントが稼働すれば、中期経営計画「増強21-25」で掲げた化学工業品事業の目標(売上高200億円、営業利益20億円)が明確に視野に入ると期待できるうえ、次期中期経営計画における化学工業品事業の収益拡大に向けた重要な基盤となるものと考えられる。
(3) 生活衣料事業
売上高6,600百万円(前期比5.3%減)、営業利益450百万円(同23.2%減、営業利益率6.8%)を予想している。主力品「B.V.D.(インナーウエア)」はECサイトやSNSなど多様なメディアを活用し、認知度を高めることで商品の販売力を向上する。また、高級肌着「アングル」も海外向けが好調であり、さらなる販路拡大に取り組む。EC販売を積極的に拡大して実店舗での売上減少をカバーするほか、繊維素材については、期中に事業の一部を休止し、経営資源を研磨材事業へ選択集中する。
(4) その他(化成品)事業
売上高3,000百万円(前期比5.1%減)、営業損失100百万円(前期は57百万円の損失)を予想している。化成品部門では、医療機器用部品の新規受注拡大に向け、本庄工場の生産を大分工場へ集約してさらなる拡張を進める。金型部門(自動車、事務機器用)は当面厳しい状況が続くが、新規顧客の獲得と既存顧客の掘り起こしを進め、受注の平準化と売上確保を目指す。また、原価管理と生産工数の管理体制を強化する。事業環境が変化するなかで研究開発の重要性が高まっており、中長期的な視野で次世代事業の開発を推進する。
3. 設備投資と研究開発費の見通し
(1) 設備投資
2026年3月期の設備投資額は7,893百万円(前期比1,747百万円増)を見込んでいる。主な大型投資テーマは、研磨材事業における「台湾研究開発センターの建設」、化学工業品事業における「機能性材料の新プラント建設」、化成品事業における「新工場建設」とそれに付随する研究開発、能力増強並びに省力化投資などである。
(2) 研磨材事業の研究開発投資
2026年3月期の研磨材事業の研究投資額は、1,620百万円とほぼ前期並み(前期は1,666百万円)を予定しており、特に、台湾研究開発センターへの研究開発投資は継続実施する。半導体の微細化は、2030年頃にオングストローム時代(2nm世代から0.3nm世代へ)を迎えようとしている。顧客からの要求水準がますます厳しくなるが、同社の研磨材ソフトパッドは確実にキャッチアップできている。今後も、微細化対応への研究開発投資を継続実施できれば、研磨材事業の“未来は明るい”と同社では見ている。
(執筆:フィスコ客員アナリスト 清水啓司)
<HN>