はてな Research Memo(7):2024年7月期も人件費等の増加で減益の見込みだが、増収率は10%弱に拡大
*15:07JST はてな Research Memo(7):2024年7月期も人件費等の増加で減益の見込みだが、増収率は10%弱に拡大
■今後の見通し
1. 2024年7月期の業績見通し
はてな<3930>の2024年7月期の業績は、売上高が前期比9.6%増の3,452百万円、営業利益が同72.3%減の48百万円、経常利益が同73.6%減の48百万円、当期純利益が同66.7%減の33百万円と増収減益を見込む。売上高はコンテンツプラットフォームサービスの減収が続くものの、テクノロジーソリューションサービスの増収でカバーする見通しだ。利益面では、成長基盤の構築に向けた積極的な採用継続による人件費の増加や、DC利用料の増加が主な減益要因となる。
(1) サービス別売上見通し
a) テクノロジーソリューションサービス
テクノロジーソリューションサービスの売上高は前期比15.7%増の2,350百万円と2ケタ成長が続く見通し。このうち「Mackerel」については前期比微増と保守的に見込んでいる。2023年12月期下期以降に獲得した見込み顧客が売上に反映されるのは2024年以降になると見ているためだ。同社では顧客基盤の拡大を図るため、オフラインの展示会出展による見込み顧客の獲得だけでなく、「次世代Mackerelアーキテクチャー」の開発やパートナーの拡充も進めていく方針で、2025年7月期以降の成長軌道復帰を目指す。
一方、受託サービスについては主力の「GigaViewer」のうちアプリ版の大型開発案件を下期にリリースするほか、既存顧客向けWeb版「GigaViewer」の改修案件もあり、繁忙状況が続く見通しだ。また、広告運用やポイント販売等のマネタイズを支援するレベニューシェア型契約による売上増も見込まれる。
b) コンテンツマーケティングサービス
コンテンツマーケティングサービスの売上高は前期比3.1%増の719百万円と若干ながら増収を見込む。前期にて減収の一因となった大型顧客のマイナス要因が一巡し、運用件数の増加とアップセル施策によって売上高も徐々に回復に向かう見通しだ。運用件数は前期末比12件増加の154件、このうち8件は採用オウンドメディアの件数として見込んでいるが、前期から開始した代理販売の動向次第ではさらに増加する可能性も考えられる。
課題は運営メディアあたりの売上高の引き上げにある。システム利用料が低い採用オウンドメディアの比率がさらに上昇するため、2024年7月期も低下傾向が続くことが予想されるが、採用オウンドメディア向けのサービスメニューを拡充することで、平均売上高の底上げを図っていく。具体的には、オプションサービスとしてSNS広告運用だけでなく、動画コンテンツ制作も試験的に開始しており、費用対効果を可視化しながら提案していく。
c) コンテンツプラットフォームサービス
コンテンツプラットフォームサービスの売上高は前期比9.3%減の382百万円と減収傾向が続く見通しだ。景気動向やインターネット広告のトレンドを踏まえ、アドネットワーク広告の単価下落による広告売上の減少を見込んでいる。新たに開始した有料記事販売サービスについては機能の拡充を図りながら拡大していくものの、売上へのインパクトはまだ小さい。「はてなブログPro」の契約件数も減少傾向が続いているため、2024年7月期は四半期ベースでいつ売上高が下げ止まるかがポイントとなる。同社では、ChatGPTに代表される生成AI技術を2023年内にも実装する予定にしており、書き手の労力を削減するなどサービス向上につながる取り組みを推進することで、「はてなブログ」の活性化を目指す。
(2) 事業費用計画
事業費用は前期比14.3%増の3,404百万円を計画している。内訳を見ると、人件費で同16.3%増の1,844百万円、DC利用料で同18.6%増の713百万円、その他費用で同7.0%増の845百万円を見込んでいる。2022年7月期まで10%前後の水準で推移していた営業利益率が2024年7月期に1.4%まで低下する要因を費用別で見ると、人件費やDC利用料の対売上比率上昇が主因となっている。人件費率については2022年7月期の49.6%から2024年7月期は53.4%まで上昇する見込みとなっている。これは売上構成比の変化(アドネットワーク広告の減収等)に加えて、成長基盤を構築するための開発体制強化に向け積極的に人材採用を進めているためだ。一方、DC利用料の対売上比率は2022年7月期の16.3%から2024年7月期は20.7%に上昇する見込みだ。これは「GigaViewer」の導入件数拡大に伴って、クラウドサービスの利用料そのものが増加していることに加えて、外貨建て支払いのため為替がこの間で3割超の円安になっていることも対売上比率の上昇要因となっている。
a) 人件費
同社は中期的な成長を担保するため、最大の強みである開発力を拡充していくとともに、組織力の向上に継続的に取り組んでいる。従業員数については、エンジニアを中心に前期末比19名の増員を計画している。人員の増加率が同9.8%増であるのに対して人件費の増加率が16.3%増と大きいのは、前第4四半期の採用数が多く、これらの人件費が通年で計上されるためだ。このため人件費率は前期の50.3%から53.4%に上昇する見込みで、ここ数年では最も高い水準となる。
組織力の強化については、人事部の体制強化のほか、人事部が開発人員を含め全職種の採用・配置・育成に対応している。また、フルリモート勤務を可能とする環境の整備を継続しつつ、リモート環境によって発生しがちな社員同士の連携不足や、新規入社時の受け入れやオンボーディング体制を整える組織づくりを進めていく方針だ。
b) DC利用料
DC利用料は既述のとおり、円安によるクラウドサービス利用料の増大により、前期比18.6%増を見込んでいる。金額ベースでは112百万円の増加となるが、このうち円安による影響額は半分以下と見られる。一部、為替予約等のヘッジを実施しているが、今後も円安基調が続くようであれば採算が厳しくなるため、自社サービスへの価格転嫁も検討していく。BtoCサービス(はてなブログPro)については難しいが、「GigaViewer」等のBtoBサービスに関しては、運用保守料などに一部価格転嫁していく可能性が考えられる。
c) その他費用
その他費用は前期比7.0%増を見込むが、主にサービス制作に関する外注費や業務委託費、広報費用や自社サービスの広告宣伝費などの増加によるものである。サービス制作関連費用の主なものとしては、「GigaViewer」の開発や広告運用、レベニューシェアにかかる費用等が挙げられる。
(執筆:フィスコ客員アナリスト 佐藤 譲)
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