エヌ・シー・エヌ Research Memo(5):住宅分野の受注が回復、環境設計分野等も堅実に成長(1)
*12:05JST エヌ・シー・エヌ Research Memo(5):住宅分野の受注が回復、環境設計分野等も堅実に成長(1)
■エヌ・シー・エヌ<7057>の業績動向
1. 2025年3月期中間期の業績
2025年3月期中間期の連結業績は、売上高3,851百万円(前年同期比8.7%減)、売上総利益1,057百万円(同6.1%減)、営業利益88百万円(同281.5%増)、経常利益118百万円(前年同期は8百万円の利益)、親会社株主に帰属する中間純利益68百万円(前年同期は4百万円の損失)となった。通期業績予想に対する進捗率は、売上高42.9%、営業利益39.8%、経常利益41.7%、親会社株主に帰属する中間純利益33.1%と、売上高、利益面とも若干出遅れているが、2025年3月期は下期に大型案件が集中していることが要因で懸念は少ない。
住宅業界では、資材価格の値上がり等を背景に住宅販売価格が上昇していることを受けて消費者の住宅取得のハードルが高くなった。その影響からか、国土交通省が発表している戸建て注文住宅の新設着工戸数は前年同月比で2024年7月は0.2%減、8月は5.1%減、9月は0.6%減と5ヶ月連続で減少した。一方で建築基準法の改正に伴う3点の制度変更((1) すべての新築建物の省エネ基準適合義務化、(2) 木造戸建住宅の建築確認手続き等の見直し(2階建木造住宅の構造建築確認申請義務化)、(3) 木造戸建住宅の壁量計算等の見直し)が2025年4月から実施されるため、ハウスメーカーや工務店は対応に迫られている。同社は、今後増大が予想される木造建築に関する構造計算等ニーズを他社に先んじて取り込むべく、SE構法登録施工店の増強や、構造計算の取扱件数増加に向けた営業活動を推進した。結果、住宅分野は売上高が前年同期比7.6%減となったものの、KPIの構造計算出荷数は518棟(前年同期比11.9%増)と回復傾向を示した。SE構法出荷数は447棟(同2.6%減)となったが、構造計算出荷はSE構法出荷の前段工程と位置付けられるため、今後の伸びが見込まれる。またSE構法登録施工店は前期末比9社増加し615社となった。大規模木造建築(非住宅)分野ではSE構法出荷数は73棟(同10.6%増)となったが、万博案件の一部中止もあって売上高は前年同期比14.0%減となった。環境設計分野では木造住宅、集合住宅及び非住宅木造物件向けの一次エネルギー計算書の出荷数が1,742件(同11.0%増)と大きく伸び、売上高は同13.5%増となった。DX・その他の分野では子会社のMAKE HOUSEが手掛ける高画質建築空間シミュレーションサービス「MAKE ViZ」の受注が好調に推移し、取扱件数は125件(同6.8%増)となり、売上高は同62.6%増加した。
利益面は前年同期から大きく回復したが、子会社の業績回復によるところが大きい。前年同期には経常損益が翠豊で16百万円、MUJI HOUSE等の持分法適用関連会社2社で32百万円の赤字を計上していたが、2025年3月期中間期は翠豊が39百万円、持分法適用関連会社2社は24百万円と黒字転換した。連結子会社のMAKE HOUSEは損失継続だが、損失幅は28百万円から14百万円に改善した。子会社が大規模木造建築(非住宅)分野や環境設計分野、DX・その他の分野の業績を後押しした。営業利益については、販管費の減少(前年同期比12.2%減)が寄与し、売上高や売上総利益の減少に比べて前年同期から大きく伸長した。
2. 事業セグメントとセグメント売上高
住宅市場については、2025年3月期中間期の新設住宅着工戸数が前年同期比0.8%減少した。単月では、2024年5月から9月まで5ヶ月連続で前年同月比減少となった。住宅建築用資材や人件費の高騰等によって住宅建築費用が増加傾向にある一方で、実質賃金のマイナス継続、日銀の金融政策変更により固定型住宅ローン金利が上昇に転じる等、消費者の住宅購入にとって悪い材料が揃っている。当面は現状維持が予想され、住宅建築需要は低調に推移する可能性が高いと考えられる。
一方で、前述のとおり2025年4月より建築基準法の改正が施行されることで、木造住宅の省エネルギー性能の確保が義務となる。従来に比べ高度な省エネルギー性能基準と、木造における確認申請基準(4号特例)の改定内容が発表され、木造住宅における構造計算の義務化や簡易設計(壁量計算)の基準強化(壁量の増加)が実施される。創業以来、同社が主業とする木造住宅の構造設計について、これまで国の政策に先駆けて取り組んできた様々な成長投資の成果が業績に表れてきており、2026年3月期はそうした成果が一気に開花する可能性が高い。
住宅分野の売上高は2,341百万円(前年同期比7.6%減)だった。SE構法出荷数は447棟と同2.6%減少したが、前期下期から続いた受注不振は回復傾向にある。1棟当たりの平均単価は5,220千円(同6.0%減)となったが、木材相場のウッドショックからの回復を受けて単価が落ち着いてきたことが要因である。SE構法出荷の前段となる構造計算出荷数は518棟(同11.9%増)と回復しており、下期以降のSE構法出荷数の伸びに期待がかかる。SE構法登録施工店については、2025年3月期中間期に19社の新規加入、廃業等による10社の退会があり、前期末比では9社増加し計615社となった。SE構法出荷数と構造計算出荷数の回復要因は、従来登録店を主体に顧客から相談を受けた案件について構造計算の観点から設計図面を検討、提案していた営業手法を変更したことである。同社の営業設計担当者が顧客との商談に関わり、SE構法の優位性である耐震性や設計の自由度を説明し、納得を得ることで案件の受注率が向上した。SE構法の優位性を訴求するマーケティング活動の強化で、顧客自身がSE構法の優位性を実感する例が増加し、受注増につながったと考えられる。
大規模木造建築(非住宅)分野の売上高は1,308百万円(前年同期比14.0%減)となった。SE構法出荷数は73棟(同10.6%増)となった。SE構法以外の大規模木造建築設計を扱う木構造デザインは、木造建築の構造計算ニーズ増大による引き合いの増加や、継続的なプロモーション活動の実施で、構造計算出荷数が45棟(同21.6%増)となった。これにより、同社が手掛けたSE構法の構造計算出荷数83棟(同15.3%増)と合わせて、大規模木造建築物(非住宅)の構造計算出荷数は128棟(同17.4%増)と大きく増加した。一方で、2025年3月期中間期に予定していた大型万博案件の一部キャンセルや、大型建築案件の施工完了が下期に集中したことなどにより、売上高は前年同期比14.0%減となった。
大規模木造建築(非住宅)分野への業績寄与として、子会社である翠豊の業績拡大が挙げられる。同社は翠豊に対し、木材加工の機械化や経営管理の強化等、改善策を打ったほか、同社とのシナジーによる受注数拡大に向けて施策を展開した。その結果、翠豊の業績は改善し、2025年3月期中間期には黒字転換した。SE構法に加え大断面集成材特殊加工(湾曲集成材)CTLパネルの併用といったコラボ案件をスタートさせるなど、シナジーの創出によって黒字化を達成。翠豊のさらなる経営改善やシナジーの高度化により一層の業績拡大が期待される。
(執筆:フィスコアナリスト 村瀬智一)
<HN>