ユーロ圏に安堵も・・・【フィスコ・コラム】
*09:00JST ユーロ圏に安堵も・・・【フィスコ・コラム】
5月18日に行われたポルトガル議会選とポーランド大統領選は、いずれも極右勢力による覇権の確立を阻止。ただ、欧州連合(EU)加盟国は中道路線で持ちこたえているものの、不透明な政治情勢に変わりはありません。域内経済の回復は遠く、ユーロは買いづらい状況です。
ポルトガル議会選(定数230)では、中道右派連合の与党「民主同盟(AD)」が勝利しました。ただ、ADは89議席と過半数には届かず、連立を余儀なくされる見通し。今回の選挙で極右政党「シェーガ」が58議席へと勢力を伸ばし、退潮傾向の第2党、社会党と肩を並べる存在に躍進したのが目を引きます。ADはシェーガとの連立には否定的で、政治の安定にはなお時間を要すると見られています。
一方、ルーマニア大統領選は、中道系独立候補でブカレスト市長、ダン氏が極右・反EU姿勢を強めるシミオン氏との決選投票を制し、新たな国家元首に選出されました。ダン氏は親EU・親NATOの立場を鮮明にし、法の支配や汚職撲滅を掲げて市民層の幅広い支持を獲得。対照的に、シミオン氏は移民排斥やロシアとの接近を掲げ急速に支持を伸ばし、農村部や若年層での浸透が目立ちました。
両国とも中道の勝利により、EU体制が維持され、ひとまず安堵感が広がりました。しかし、ルーマニアはシミオン氏が決選投票進出で、極右台頭の深刻さを浮き彫りにしました。EU加盟以降の恩恵を実感できていない層の不満を反映していると言えます。域内全体で極右躍進の流れは歯止めがかからず、リベラルという基礎部分が揺らいでいることに変わりはないでしょう。
ポルトガル、ルーマニアの選挙は市場の期待に沿った結果に終わり、ユーロの値動きへの影響は限定的。ですが、政治情勢は引き続き右派躍進が警戒され、長期的にユーロが買いづらい状況です。各国政府は、極右勢力の主張を無視できず、移民政策や財政出動において抑制的な姿勢を取らざるを得なくなっています。結果として、賃金の伸び悩みやインフラ投資の停滞を招き、内需主導の景気回復は難航しています。
域内格差の是正や構造改革への取り組みも後回しとなっており、ユーロ圏経済は低成長から抜け出せない状態に陥っています。米トランプ政権は対EU貿易交渉を控え「中国よりもひどい」と早くも臨戦態勢で、関係悪化ならマイナス成長に逆戻りしかねないでしょう。ユーロは政治安定の裏で積み残された課題を抱えたまま、当面は反発力に乏しい展開が予想されます。
(吉池 威)
※あくまでも筆者の個人的な見解であり、弊社の見解を代表するものではありません。
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